やわらか記念写真
本実験は、高強度ゲルと3Dゲルプリンターによるやわらかいモノづくりを研究する山形大学 ソフト&ウェットマター工学研究室の最先端技術を活用した、まったく新しい試みとして行われました。もともとは医療分野などを想定して生まれた技術ですが、「より幅広いシーンで活かせないか」という想いから、人のやわらかさを記念として残す「やわらか記念写真」という発想が生まれたのです。
やがて変化してしまう子どもの「やわらかさ」を残したいという保護者の願いを叶える、前代未聞の実験のレポートを以下にまとめます。
実験概要
2022年12月3日(土)から12月24日(土)のうち22日間イベントを開催しました。イベント期間中の土曜日・日曜日には、「やわらか記念撮影」を行い、参加者に体験してもらいました。
「やわらか記念撮影」では、赤ちゃんの顔の形状を「3Dスキャン」で読み取り、ほっぺたのやわらかさを「やわらかさセンサー」で計測した後、高強度ゲルと「3Dゲルプリンター」で出力し、赤ちゃんの顔の形とやわらかさを再現。当日撮影した顔写真でゲルを真空パックしてできあがった「立体的な記念写真」を、参加者の皆さんにお持ち帰りいただきました。
実験結果
全体
7日間の期間中「やわらか記念撮影」に30組の家族が参加しました。記念撮影を行った子どもたちは、きょうだいでの参加を含め33人。子どもたちの年齢は0歳6ヶ月〜2歳7ヶ月でしたが、1歳0ヶ月〜1歳7ヶ月の子どもたちがもっとも多く参加していました。
赤ちゃんのほっぺたは、どらやきと同程度のやわらかさだった
33人の子どもたちのほっぺたのやわらかさは、新光電子が開発したやわらかさセンサー「SOFTGRAM」で計測しました。計測された数値を平均すると、赤ちゃんのほっぺたのやわらかさは86kPaとなり、どらやきと同程度のやわらかさであることがわかりました。
なお測定されたやわらかさのうちもっとも高い数値は135kPaで、うどんと同程度のやわらかさでした。反対に、もっとも低い数値は21.3kPaで、かまぼこと同程度のやわらかさという結果が出ました。なお、やわらかさセンサーは表面のやわらかさを測定するもので、実際に指を押し込んだ感触は数値と異なる部分が感触もあり、やわらかさの奥深さにも触れることができました。
アンケート結果
本イベントに参加いただいた保護者の方に、やわらか記念撮影の感想を伺うべくアンケートを実施しました。(商品受け取り時に配布したアンケート用紙による任意回答、有効回答数 29件)
再現されたほっぺたを目の前にすると、思わず笑顔になってしまう
アンケートにて、本イベントの満足感について「とても満足」「満足」「どちらでもない」「不満」「とても不満」の5段階で尋ねたところ、19人(65.5%)が「とても満足」、10人(34.5%)が「満足」と回答しました。評価理由の回答では、『今この瞬間を写真とは異なる形で残すことができた』、『ほかではできない経験だったのが楽しかった』というイベントのテーマへの満足感がうかがえました。
出来上がった記念写真の仕上がりについては、多くの方が『実物の柔らかさに近いと感じた』と回答していました。一方で、ゲルの上にプリント写真のパッケージが貼られる分『実際よりも少し固いと感じた』という回答もありました。
また、実際に受け取った際の気持ちについては、『嬉しかった』『祖父母にも見せたいと思った』という肯定的なものがほとんどでした。
参加者の声
VOICE / 手にした時の気持ち、本物と比べてどうだったか
柔らかさに感動
・本物のようにぷにぷにで幸せな気持ちになれた。
・可愛くて柔らかくて、ほっぺたと似ててびっくりしました!
・娘のほっぺの感触に近く、おもしろいと思った。早く家族に見せたい気持ち。
・頬のやわらかさが思った以上に再現されていて驚いた
子どもの姿を立体で残せて嬉しい
・いざ自分の子の写真で見るとすごく嬉しいです。
・中の柔らかさまで実現できることはないので、すごく嬉しかったです。
・立体になっている感動と、たしかにそれっぽい柔らかさでうれしかったです。
良い記念になった
・かわいいな、ずっと残しておきたい記念になったなと思いました。
・残せる機会がないのでよかった。
・1歳の記念にいい体験になりました!
シワの軽減、触り心地の改善などのクオリティアップによって、サービスが誕生する可能性も
本イベントはあくまで実験的な試みでしたが、「今後サービス化した場合、どのくらいの料金が妥当だと思うか」と問うたところ、51.5%(15票)が2,000〜3,000円と回答しました。また、もっとも低い金額は30,9%(9票)が回答した1,000〜2,000円で、もっとも高い金額は、3.4%(1票)が回答した10,000円でした。本イベントの料金が1,500円であったことから、同等の金額もしくは近い金額が妥当だと感じた方が多かったようです。中には、『クオリティが現在よりも向上した場合、もっと高額でもいいと思う』という意見もありました。
また、サービス化に向けて今回のイベントや作品についての改善アイデアを募ったところ、『真空パックした際に写真に浮かんでしまうシワがなくなるとなお良い』という意見が多く寄せられました。また、パッケージの撮影は現地でスタッフによって行われたため緊張してしまう子どもたちも少なくなく、『事前に保護者が撮影した写真で作成してもらいたい』という意見もありました。
VOICE / イベントや作品についての改善アイデア
写真のシワを軽減させる
・顔周りのシワがやはり気になる。あえてほっぺただけにゲルを入れた方がシワも少なく、顔がわかりやすい気がする。
・シワがもうちょっとできなければうれしい…。でも十分可愛いです。
持ち込んだ写真で作成する
・ベストな写真を持ち込んでやってほしい。
・画像をアップロードしたら出力されるようになってほしい。
表面の質感もリアルに
・赤ちゃんの肌の柔らかさが再現できるフィルムなどが発明されればさらにクオリティが上がると思いました。
・触った感覚が肌のすべすべに近づいたなら、もっとおもしろそうです。
子連れでも訪れやすい場所で開催
・品川など子供がアクセスしやすいところだといいな♪
・渋谷という立地は良かったが、センター街は子連れではあまり行きたくないところなので、ショッピングモールの中などだと良かった。
赤ちゃんのやわらかさで残したい部位、第1位はほっぺた
今回のイベントでは赤ちゃんのほっぺたのやわらかさを計測し3Dゲルで再現しましたが、「赤ちゃんの身体のうちやわらかさを残したい部位」を1位から3位まで尋ねたところ、やはり「ほっぺた」が27票とダントツの1位を獲得しました。次いで多かったのがふともも(16票)で、その次に多かったのがにのうで(12票)でした。
成長とともに筋肉がつき身体がスリムになっていくと、赤ちゃん特有のやわらかさはなくなっていくもの。この時期ならではの肉付きのよさが感じられる部位を残したいと思う保護者が多いようです。
また「そのほかに3Dゲルで作ってみたいものはあるか」という問いでは、やわらかさを好みに合わせられるぬいぐるみや、ペットの肉球のやわらかさを再現したもの、世界一気持ち悪い触感を再現したものなど、自由な発想が多数寄せられました。
VOICE / 3Dゲルで作ってみたいもの
まくら、クッション
・首枕
・枕
・おしりクッション
おもちゃ
・やわらかい立体パズル
・立体人形
・好みの柔らかさでぬいぐるみ(ストレス解消目的)
ペットの肉球
・犬の肉球
・わんちゃんや猫ちゃんのぷにぷに肉球
その他
・釣りのワーム
・足に合った靴のソール
・食品の模型
・世界一気持ち悪い触感を再現
やわらかテレポーテーション
2022年12月25日(日)には、クリスマス特別企画「やわらかテレポーテーション」を開催。想定していた遠距離カップルや夫婦での応募はありませんでしたが、「10年来の元同僚」のお二人にご参加いただきました。
■ 参加者
女性用下着の販売の会社にて「10年来の元同僚」だったお二人。大阪から参加した「ゆーみん」さんは現在も同会社に勤めており「いつかバストの柔らかさを表現したい」という夢を持って本企画に応募したそうです。当日は大阪の会場にて、予定していた「くちびる」のやわらかさを計測した後、本人の希望で「バスト」「二の腕」のやわらかさもセンサーで計測。東京で待つパートナーと、出力した3Dゲルを介してやわらかさの共有を楽しんでいました。
■ 転送した部位
・くちびる(形状、やわらかさ)
・バスト(やわらかさのみ)
・二の腕(やわらかさのみ)
参加者の声
自分の体を送った感覚になった。
画面越しに色んな人に触られている様子を観て、まるで自分が触られていていりような恥ずかしい気分にもなりました。
胸を再現する夢が叶った。
胸のやわらかさを、実際に触る以外に表現したいと思っていたので実現してもらえてよかった。
一層会いたくなった。
体験してみるとより会いたい気持ちになりました。実際に会って、パートナーのやわらかさを再確認したいと思いました。
やわらかさを数値に残しておけるのはサービスになるかも。
若いときのバストのやわらかさを測って、残しておいたりできると面白そうだと思います。
コラボレータの声
今回の実験について『赤ちゃんの頬のやわらかさを3Dゲルプリンターで再現して感触を残すという画期的な取り組みとして注目を集めている』と報道している3Dプリンター業界の記事を見つけました。他にも『孫たちの写真を撮ってやりたい』『医学分野では、例えば内科の触診モデルにもできますね』『ペットの肉球もできそう』といった声もいただいています。たくさんのうれしい反響に応えるべく、研究開発や商品化に邁進いたします。
山形大学 ソフト&ウェットマター工学研究室(SWEL) 古川 英光
まとめ
今回の実験では、愛しい我が子や大切なパートナーのやわらかさを作品として残すことで、まったく新しい記念撮影の形を参加者に提案することができました。
人の身体のやわらかさは成長や老化によって少しずつ変化していくもの。どんなに愛おしいと思っても、その質感を保ち続けることはできません。しかし、近い感触を3Dゲルに残すことで、作品にふれるたびに当時のやわらかさをリアルに思い出すことができるようになるのではないでしょうか。
実際に体験した方々からも『やわらかさを残すことができてよかった』という肯定的な声が多数集まりました。もしかすると近い未来には、記念写真は立体的に残すことが一般的になっているかもしれません。
メディア掲載実績
●新聞
日刊工業新聞『赤ちゃんのほっぺ、3Dゲルでやわらかさ再現 山形大など実証』(2022/12/6)
山形新聞『わが子のほっぺ もちもち保存』(2022/12/24)
日経MJ『やわらかいって素晴らしい』(2023/1/20)
●Webメディア
よろず〜ニュース『赤ちゃんのほっぺを再現した「やわらか記念写真」誕生!! 渋谷で高強度ゲル企画を開催』(2022/12/11)
ShareLab『ゲル3Dプリントで人体の柔らかさを再現する「やわらか記念写真」を実施 ― 株式会社人間、山形大学』(2023/1/4)